<戦評> マンチェスター・ユナイテッド 1‐1(PK6-5) チェルシー     UEFAチャンピオンズリーグ 決勝

  

試合開始前、BILEIVEという一文字が、マンチェスター・ユナイテッドのゴール裏に浮かび上がったが、まさに、PK戦の最中、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターは、ひたすら信じるしかなかったのではないだろうか。そのかいあってか、07-08のUEFAチャンピオンズリーグマンチェスター・ユナイテッドがPK戦を制して優勝した。

試合会場のルジニキ・スタジアムは、陸上競技場のため、普段、サッカー専用スタジアムで試合をしている両者には、やや違和感ある舞台だったが、歓声はプレミアそのもののだった。試合は、様子見から入るかと思いきや、立ち上がりから両チーム共に前へ出た。やはり、このあたりは、英国同士のクラブといえよう。イタリア同士のクラブだったら、こうはならない。また、このレベルになると、(日本代表のような)意味のないバックパスがほとんどない。

チェルシーには中盤でゲームを組み立てながら、トップに当てる意思が見え、マンチェスター・ユナイテッドはロングか縦パスか、サイドを使う意図が見えた。マンチェスター・ユナイテットとしては、ハーグリーブス起用は「当たり」だったといえよう。チェルシーは前へ楔すら打てない状態だった。また、マルダ、クリスティアーノ・ロナウドという対極にいる双方の左が仕掛けようとするが、相手のマークがきっちり入り、思うように崩せない。逆に、双方の右からは何本かいいクロスが入っていた。

マンチェスター・ユナイテッドの先制点は、その右から生まれた。27分に右のブラウンから、ドフリーだったクリスティアーノ・ロナウドに合わせたヘッドは、ゴールに吸い込まれた。クリスティアーノ・ロナウドがあそこにいたのも、左に起用された妙といえよう。スコアが1‐0になり、試合展開はイングランドスタイルで、さらにスピーディになっていく。ツェフの連続スーパーセーブが生まれ、エッシェンのミドルが冴える。やや、チェルシーは同サイドこだわりすぎていたが、中ほどから、マケレレランパードエッシェンを中心にサイドチェンジを入れるようになると、チェルシーにリズムが生まれていく。

前半ロスタイム、槍のようなエッシェンのミドルの跳ね返りをランパードが「らしく」決めて、同点に。時間帯が時間帯だけに、この同点弾が、後半の両チームの勢いをより鮮明にさせた。同点に追いつかれたマンチェスター・ユナイテット、同点に追いついたチェルシーの勢いの差は、歴然だった。後半は、ほぼチェルシーがゲームを掌握していた。特に、マンチェスター・ユナイテットの中盤は間延び状態になり、チェルシーは中盤、フリーでボールを持てるようになり、好き放題にシュートを放った。ドログバのポストを叩く惜しいミドルも出た。

ただ、決勝ゴールが生まれず、延長になると、むしろ、それまで試合を押していたチェルシーにトーンダウンが見られた。やはり、延長になると、組織はほころび、個人技が主体になる。延長前半序盤こそチェルシーが攻め立てたが、そこで決め切れなかった。それに対して、マンチェスター・ユナイテットはすこしだけ息を吹き返すが、果敢に動いてるのはテベスだけ。同じく彼らも好機を決めきれず、最後は、チェルシーにお付き合いしてしまう。

結局、PK戦になり、3人目のクリスティアーノ・ロナウドが外したとき、やはりと思った。そして、テリーが決めれば優勝の決まるキックを外した瞬間は、やはりと思った以上に、これで勝負が決まったと思った。なんとなくだが、延長でドログバが退場した段階で、チェルシーからは運が逃げていったように見えた。

しかし、この試合の主審はひどかった。まるでJリーグの笛を吹いているかのようで、いちいち笛を鳴らしすぎ。ボールに当たるわ、誤審のオンパレードで、あれでは両チームの選手はフラストレーションが溜まり、たたでさえ地味になりやすい決勝に不味さの拍車をかけるようなものである。イングランドクラブによる弾丸ファイターの試合なのだし、すくなくとも、この大舞台の笛を吹くべき主審ではなかった。


最後に、日本では考えられないが、深夜1時まで試合をしていたことになる。わたし個人的には、どっちを応援してるわけでもなかったので、感情移入の難しい試合だった。前回ファイナルのようにバラックが君臨できなかったのは残念。クリスティアーノ・ロナウドもゴールは決めたが、マークされていた分、本来の存在感は物足りない印象も。双方からMVPを出すなら、わたしはテベスと、ジョー・コール(&エッシェン)を推す。それと、決勝がなければ、今日、日本の三ツ沢にドログバはいたのかもしれない。