Jリーグを13節までを振り返って  <浦和編>

  


開幕2連敗の浦和が首位で中断期間へ入った。今季の浦和の試合をスタジアムで見ている人なら、綱渡りだったことは肌感覚で感じたはず。試合での勝利そのものは嬉しいとしても、中盤の構成はなく、何をしたいフットボールなのか、伝わってこない。まるで出来損ないのリバプールを見ているようなフットボールだった。それでいて、見ていて面白いかといわれれば、守り一辺倒の去年より面白い。だが、心臓には悪い。

しかし、試合数が10試合を超えたあたりから、守備からきちんとゲームに入ることで、それなりにチームの容のようなものが生まれてきた。同時に、序盤での無駄な失点が消えた。テストではなく、実戦の中でチームを作り上げているから、これほど強い骨子はない。どちらかといえば、今は、ACL仕様のチームになっている。このまま大崩れがなければ、やがて、秋ごろに本格化するかもしれない。

身内に厳しいわたしが、珍しく、浦和が首位にいる理由をあげてみると以下。

・運があった。(これは去年もそう)
・対戦チームの巡り会わせが良かった。主力が退場してたり、相手がたまたま不調の時期だった。
・今年、流行の主審の弊害をほぼ免れた。(13節の岡田主審を除く)
・正念場だったアウェイの清水、磐田2連戦に結果オーライでも勝ったのが大きい。
・キモだった鹿島戦を上手く通過した。(大きな落胆も過剰な慢心もなかった)
・失点しても、選手が俯かない。
・サポーターの雰囲気作り&プレッシャーに、さらなるメリハリも。
・90分の内、ごくたまに何本か、効果的なサイド攻撃がある。
・梅崎、細貝、永井の気持ちがチームのカンフル剤になっていた。
・細貝が唯一、去年の長谷部の役割を引継ぎつつある。
・ゲルトの采配が臨機応変・フレキシブル。状況に合わせ、オジェックとは正反対。
・ゲルトの配慮。(野球の星野監督並に)選手・スタッフへ気配りが行き届いている。
・選手がゲルトのために、という士気になっている。
・いままでにない若手の起用。
・外部要因として、他クラブがもたついている。
・堤、堀之内、阿部のDFを固定して我慢して使い続けた。


開幕時、停滞しそうな空気を換えたのが一番大きいだろう。なにより、選手がゲルトのために、という士気になっているのが一番大きい。このエネルギーは理屈抜きで、技術や戦力云々を超えてしまうこともある。また、(去年のゼロックス杯大敗同様)開幕2連敗したことで、余計な雑念は消え、ただ勝つという一直線の気持ちが功をそうしたともいえる。開き直りといえば言葉は悪いが、勝つこと以外、何も考えないというのも、意外と理屈を超えたパワーになりやすい。

去年の浦和になかった若手の起用は、新たな新鮮さを与えてくれている。若手では、去年までは小池、細貝くらいしか起用されておらず、ここ数年、選手を外から買ってくることもあり、若手は育たないようなイメージで見られがちだったが、ここにきて、堤、堀之内でレギュラーを固定、山田直、高橋などユースからの格上げ、そして、山田直、エスクデロの途中起用と、すでに二、三年後の浦和までの将来を考えているともいえよう。おそらく、ゲルトは、前々から考えていたのではないか。自分が監督になったらこうしようというビジョンを監督になる前から持っていなければ、こうはできない。


と、まあ、褒めるのはここまでで、以前にも、浦和は、たいして強くもないという記事を書いたが、今も、その考えに変更はない。実際、大阪、鹿島はACLとの二股、川崎は不安定、名古屋も上位キープ学習中と、他のクラブがもたもたしていた間隙を縫っているのは否定できない。内容がなく勝っているのは、一過性だが、内容があって負けているのであれば、潮目が向くまで我慢すればいいだけだ。浦和は、(最後の大阪戦以外は)前者で闘ってきた分、勝負というより、ギャンブルに打ち勝って来たに過ぎない。

シーズンにはかならず流れがあリ、浦和が夏場に失速する可能性もなくはない。代表に選手を取られ、6月のブレイク期間も全員メンバーが揃って合わせられる時間はそれほどない。監督が変わっている以上、ひとたび崩れると、ナイアガラも大きい。当然、首位に慣れすぎると、首位陥落した時のショック、ダメージも大きい。

また、浦和には、すくなからず懸念はある。永井、高原、田中、闘莉王、阿部は怪我持ちで、いつ、誰が戦線離脱するかはわからない。高原、エジミウソンが100%完全にフィットするには、ひょっとすると、1年かかるかもしれない。特に、高原については、起用をどうするのか選択を迫られる。ただ、一番の懸念材料をあげると、主軸のポンテが戻ることで、「もう大丈夫だ」という慢心ムードが出来上がってしまう事であろう。開幕時に持った危機感を捨て去るのは早すぎる。

怪我人が戻ってくるため、当然、チームは作り直しになる。まず、チームがなにがしたいのかの方向性を決め、きちんとした「容(かたち)」を作り、ピッチで具現化することだが、1-0で勝つフットボールでもいいし、オフェンスエイトでもいいし、イングランドスタイルをしたいなら、それでもいい。とにかく、長いシーズンで優勝を目指すのならば、なんであれ、ひとつの容を持つのは、必須である。勢いと運でも勝てるカップ戦ならまだしも、日替わり弁当で勝てるほどリーグは甘くない。仮に、秋ごろに容が出来れば、一番の理想かもしれない。


最後に大きな懸念を上げると、再び、ポンテに戦線離脱があった時、どういった対応が取れるのかになる。むしろ、そうなった時こそ、浦和が今季13節までをかろうじて乗り切った経験がリアルに生きてくるのではないだろうか。(去年はそれがなかったが)シーズン前半の撒いた種が芽を出す時期が来るかもしれない。特に、秋はACLがある。浦和が今、首位にいるのは、ACLのための貯金と考えてもいい。そして、シーズン終盤は札幌遠征に加え、大阪、清水、横浜と難敵が揃う。いずれにしても、浦和は、独走ではなく、薄氷を踏む想いでリーグを闘っていくことになるだろう。


*尚、細貝、梅崎らの参加してるトゥーロン国際で、日本五輪チームがオランダ五輪チームに1‐0で勝ったが、(オランダが二軍だからという訳でなく)妥当な結果。出来れば、3‐0くらいで勝って欲しかったが、むしろ、日本の真価はチリ戦で問われる。