<選評> 帝京大 17-12 早稲田大 (大人と子供の試合)

      
        
      
『決勝では、帝京は、ミスしても勝てるが、早稲田はミスをしたら勝てない。』

先日の試合前の<展望>では、そう書いてる。(完璧な試合をしなければ勝てない)早稲田に、あんなにミスが多いとなると、ただでさえ勝てない試合が、確実に勝てない試合になる。帝京FWの圧力によるミスは仕方ないが、イージーミスが減らない。ゆえに、好試合になる要素も大きく後退した。早稲田は、要所でポロポロ、ポロポロと、ボールをこぼしては、流れに乗れず、タッチキックは、きっちりタッチに切れずにカウンターを喰らう始末。最悪なのは、前半の序盤にダミーを犯し、地域挽回のチャンスを失ったばかりか、試合開始の流れを相手に渡してしまった。帝京の先制点は獲るべくして生まれたものといえよう。好試合を期待していたわたしが馬鹿だったが、あの段階で、もう、試合は一方的になると確信し、あとは、<展望>とのすり合わせ、確認作業でしかない。

試合展開だが、早稲田の下級生フロントローでは、話にならないと<展望>に書いた通り、スクラムやモールはもちろん、セットのラインナウトまで含めたFW周辺は、社会人と大学生。いや、まるで大人と子供だった。あれでは、帝京がノックオンしても、帝京の(スクラム)チャンスになってしまう。ミスがミスでなくなってしまうのだから、試合にならないのは当然。攻守の切替でも、ブレイクダウンではことごとく帝京がボールを毟り取って、ターンノーバー。帝京のやりたい放題だった。

こうなると、40-10くらいに大差がついて、ゲームが壊れないことを祈るだけだったが、意外と、帝京が決勝というワンマッチを意識してくれて、スコア上は救われた。帝京は、ペナルティキックで取れるところは、確実に3点取る手堅い試合の進め方で、早稲田FWを木っ端微塵にする力がありながら、リスクを冒さす、早稲田を粉砕することより、決勝そのものに勝つことを意識していた様子だった。欲を殺している姿勢に、凄みを感じたし、それが帝京のプレーにも現れていたせいか、安易なプレーは少なかった。

そんな試合の中で、帝京はひとつの冒険をし、成長の跡も見せていた。というのも、前半28分、帝京は、相手ペナルティを貰いながら、それまでの手堅いペナルティキックでなくトライを狙いに行った。あの帝京の判断に、彼らの成長を見た気がする。あそこは、(勢いや気持ちがそうさせたのかもしれないが)試合の流れがわかっている判断。あそこでトライを決めてしまえば、ゲームは決まっていた。結果的に、帝京は、点を取れなかったが、早稲田に流れを渡すものではなかった。リスクを犯していい場面でリスクを冒したに過ぎず、むしろ、ゲームの流れをわかっていると好感を得た。

逆に、早稲田の良い点は、少なく、トライとなった井口のカットインが一回成功したくらい。あれも、練習しているパターンが嵌ったレベル。あとは、想定していた相手キックからのカウンターも決まらず、中濱は消え、井口のステップは、大きなゲインを生めない。頼みの山中は、細部で非凡なものは見せるものの、ミスキック病が治らず、最後までエンジンがかからなかった。なにより、早稲田のFWがあれでは、どうしようもないし、その上、ミスのオンパレードでは。帝京も、この試合での選択肢は少なく、FW周辺のみ一辺倒であるがゆえに、それ以外の局地戦に持っていけば、早稲田も対抗しようがあったが、帝京がそれをさせなかった。もしくは早稲田が自滅に近い(細かい)ミスの連発でそれを手繰り寄せられなかった。

最終スコアは、17-12。これを早稲田の善戦と取るか、帝京の辛勝と取るかは自由である。ただ、スコア的にゲームは壊れていないが、内容(支配率)では、完全にゲームは壊れていた。少なくとも、わたしには5点差が50点差くらいに見えていたし、帝京からしたら、早稲田は、練習相手にもなっていないのではないだろうか。帝京のトライでのノックオンもご愛嬌になる。(真に競った試合なら、早慶戦の早稲田のように、あれは致命的なミスになってるところ)

最後に、この試合で、残念だったのは、(気にはならないレベルで)主審のジャッジが、所々で甘く、すこし不安定だったこと。たとえば、微妙なノッテンは取らないし、アドバンテージの長さにばらつきがあり、早稲田のスローフォワードを取らなかったり、帝京のノットストレートを取らなかったり。安全面はよく見ていたが、(比較的、容易な)セットからのプレーでの見過ごしが目に付いた。


さて、来季以降の大学ラグビーシーンだが、(帝京が今季前半のように勘違いせず、FW周辺の守備力を維持すれば)帝京の三連覇は、濃厚である(断言する)。ひょっとすると、4連覇してもおかしくはない。なぜなら、あの帝京が、未だ、発展途上で、完成しきっていないということである。二連覇していながら、課題は多く、その分、伸び代は大きい。たとえば、ミスはもっと減らせるし、上手な反則を覚えたり、もっとゲーム巧者になる素地はある。あとは、自分たちのスタイルで戦えず、後手を踏んだ展開で、いかに勝つかである。これは、社会人との試合でしか得られないが、試合中の修正能力も課題の一つである。とりあえず、大学王者が、まだ、五合目に居るのは、間違いない。逆に、来季の早稲田だが、山中、中濱が卒業し、戦力ダウンは否めない。現状、早明慶は、東海大にも勝てないというのがわたしの見立て。闘魂と精進がなければ、来季は、ベスト4がせいぜいであろう。


*あえて、辛辣に書いてますので、あしからず。
*主審のくだりは、あくまで個人的な印象であり、客観的には妥当なジャッジです。