オシムが満足している理由とその危険度は・・・ <日本対ガーナ戦>

ガーナの先制点が遅かったために大量失点は免れたのか、それとも日本は勝てたのか。
実際、当のオシムは試合の結果をあまり問題視はしてないだろう。そればかりか、それ以上に彼は昨日の試合で多少なりともチームに手ごたえをつかんだはずだ。

え?どうして?

そう思われる方も多いはずだが、実際、格上相手に90分の内、たとえ5分でも自分のやろうとしていることがすくなからず出来たからで、未来において、オシム自身の方向性は遮断されることは無かった。なにより、小さいながらも突破口が見出せたことに安堵しているに違いない。

毎度、代表メンバー発表時からDFが少なく、やたら中盤が厚いのは誰もが気にはなっていたところだが、今日の試合ではそのオシムの意図が部分的に具現化されていたともいえる。解析すると、状況によって今野、阿部がボランチとDFの1人二役をやったことで、結果的に3バックともとれるし、3ボランチにもなった。そのことで鈴木啓が十字路の交差点のように仕事ができ、前の負担が減った分、前線からプレスをかけられた。状況次第では、中盤が6~7人いて、事実上、水本の1バックだったともいえる、

アバウトだが、オシムの戦術はこうだ。中盤を厚くすることで、まず、数で相手の中盤を上回る。そして攻撃ではワンタッチでつないでサイドに散らすか、縦の裏へ送る(このときに別途アイディアが求められる)。守備では先読みをして走ってプレスをかける。つまり中盤が攻撃でも守備でも走り、各個が判断してポジションチェンジしながら連動することで、はじめて日本の特性を活かすことができる。そこに狙いがあるから、オシムフットボールでは華麗なファンタジスタの個人技、強いフィジカルよりも、俊敏性や運動量、(複数のポジションができる)融通性が求められる。つまりは中盤の地味な質と運動量が鍵になる。もっとわかりやすく簡単に言えば、華麗ではないが泥臭いバルセロナをやりたいのだろう。はたまた全員攻撃、全員守備のスモールバルセロナか。

昨日の試合では、時間帯によってはそれが具現化していた瞬間も断片的にはあった。今野、阿部は先を読んだ動きが目立っていたし、攻撃ではダイレクトにつながるシーンもあった。とにかく動きながらつなぎ、特に佐藤と羽生が入れ替わったあたりはオシムの確信とも取れた。もちろん、ガーナのような相手だと、引かずに前に出てきてくれるから日本もやりやすいという部分もあったであろう。もちろん、試合内容すべてに満足できないが、とにかく、オシムのやろうとしていることの欠片くらいはおぼろげに見えていた試合だった。

つまるところ、走ってプレスしてかきまわして、相手とのフィジカル勝負に持ち込まないという点では、トルシエのフラット3と似て非なることはない。日本人の長所、弱点、特性を考えた戦術である。おそらく、メキシコ、イタリア、フランスのような中盤のポゼションを基盤とするチームにはそこそこ組めるだろう。

しかし、この戦術にも弱点はある。中盤の運動量が落ちれば、それだけ相手に余裕を与えてしまうことになり、相手が日本DFから得点するのはたやすくなる。また、11人守備で来るどん引きの(格下)相手には無力化し、イングランドのような中盤を省略したフットボール、北欧のような前線でのパワープレーに長けたチームには苦戦することになるだろう。フィジカルを避けたいところでフィジカル勝負に持ち込まれたら、ジ・エンドである。

そんな長所短所を兼ね備えた戦術であるから、浮沈の橋頭堡(きょうとうほ)ではない。今後はメンバーも連動性重視から固定しなくてはならなくなる。とにかく、現時点では相手次第というところであろう。どんな相手をもねじ伏せられるというわけではない。

余談ながら最後に、オシムはこういっていた。
「日本人はプレッシャーの中でオプション、アイデアを実行できない人が多い。そこに勝ち負けの差がつくもの。」
自身の戦術の裏返しともとれる言葉だが、これが可能な(プレッシャーに強い)日本人は、今も昔も中田英だけであろう。Jリーグはフリー以外に攻めの選択肢を見出さず、フリーからシュートを打つことに慣れすぎてしまっている。

どんな優れた名将の戦術にも限界がある。最後は選手個の質で勝負が決まることを暗に認めているものでもある。

(了)