<選評> UEFAチャンピオンズリーグ 準決勝 2nd

  
 
もし、決勝がマンチェスター・ユナイテッドチェルシーの再戦だったら、(個人的には)何も興味の湧かない対戦マッチで、どちらも勝たなくていいという微妙な感傷だった。チェルシーフットボールは、セットプレー、カウンター、ランパードのミドルが主な得点源。シュートを打つにしても、ルーズボールを拾うか、ただ強く打って、あとはどこかに当たって入るというパチンコのようなフットボール。かたや、マンチェスター・ユナイテットは、ファストブレイクを身上としたシンプルなスピードフットボール。この両者が戦えば、試合展開がスピーディなのはわかるが、感覚だけで見ればよく、思考をまったく使わなくていいため、悪く言えば、深みは無い。そういう意味で、マンチェスター・ユナイテッドバルセロナは、(メディアは世紀の一戦と煽るであろうが)それなりのマッチかもしれない。

とりあえず、準決勝2試合の総評だが、相場から言うと、準決勝は片方はつまらなく、片方は面白いという定番だが、内容的には両方ともつまらない試合だったかもしれない。アーセナルマンチェスター・ユナイテッドは(ワンサイドになり)最低の試合。かたやチェルシーバルセロナは最後の6分がなければ、ただのグダグダな内容だった。



アーセナル 1-3 マンチェスター・ユナイテッド
    (合計スコア1-4)

鉄板予想通り、マンチェスター・ユナイテッド余裕の勝ち抜けに。もし、フレッチャーの退場が前半の早い時間帯で、かつアーセナルの先制だったら、きっと、試合は面白くなっていたであろう。しかし、この試合にフットボールの神はいなかった。試合は前半45分持つどころか15分足らずで終わった。後半はマンチェスター・ユナイテッドウイニングランだった。

前半立ち上がりを除き、アーセナルはなんの抵抗も出来ず無様に敗退。この重要な試合で、ああいった(失点シーンの)イージーミスを平気でするのは、アーセナルの永遠の課題だ。あれがなくならない限り、アーセナルの戴冠は永久にない。正直、見てるこちらはあきれるしかないし、エミレーツを埋めたガナーズ達にも失礼だ。比較するのもなんであるが、(ここぞというところで、ミスから惨敗する点では)去年の浦和より酷い。試合は、朴智星が先制した時点で、残りの時間は消化試合に。先制点直後には、ロナウドの(漫画のような弾道の)冗談FKが決まり、マンチェスター・ユナイテッドのサポーターには、幸せなビールタイム、お祭りになったであろう。

ロナウドはもちろん、朴智星が好調だ。この試合でも、いいところでいい動きをしていた。リバプールのカイトほどではないが、ああいった黒子がいるチームは強い。この調子であれば、(去年、ベンチにも入れなかった)朴智星の決勝スタメンはほぼ確定。おそらく、アジアで最初のUEFAチャンピオンズリーグ制覇の選手になるはず。また、年末のCWCでは、UAEマンチェスター・ユナイテッド対大阪が再び実現するのではないだろうか。

しかし、かえすがえすもアーセナルは「出直して来い!」と強く言いたい。



チェルシー 1-1 バルセロナ
    (合計スコア1-1)

日本代表やアーセナルもそうだが、パスサッカーを身上とするチームが、引いた相手に苦戦するのは、今にはじまったことではない。日本代表がアジアの格下に苦戦しているように、バルセロナにとって、この準決勝は、まさに、そんな試合だった。

チェルシーは、前半の早い時間で、(もう一回やれと言っても無理な、ジャンボ宝くじに当たったかのような)エッシェンのスーパーゴールが決まり、あれで優位に立った。もちろん、同点にされるリスクはあったが、チェルシーはドン引きに引いて、カウンター狙い。1stレグと同じことをすればいいだけだ。試合はその通りに進んだ。メッシ、エトーは消え、アンリもいない。バルセロナは時間がなくなっていくにつれ、焦りが増し、強引な中央でのパス回しを敢行、ことごとく切断される。プジョルのいない急造DF陣も(思わず、手を使いまくっていたが)不安定な楼閣。GKビトールの膝でのスーパーセーブがなかったら…。3本あったFKもすべて宇宙開発(中村俊輔なら1本決めてたかも)。完全にバルセロナの持ち味は殺された試合だった。

さらにバルセロナは退場者を出し、10人に。もはや、バルセロナは、十字架に張り付けられたキリストだった。チェルシーの勝ち抜けは決まったも同然。グアルディオラも降参して試合中にヒディングの元へ行ったくらいだった。しかし、89分は駄目でも、1分良ければいいのがフットボール。その典型のようなシーンが90分過ぎたロスタイムに。

メッシは試合中、あまり強引に行かず、常にパスを意識していた。そして、最後、ボールを託されたシーンで、彼はパスを選択した。イニエスタが外したら、(自分が行けばよかったと)後悔の残る選択になったかもしれないが、イニエスタは、この試合で(チームとして唯一)まともなシュートを放ち、そのままゴールネットを揺らした。押さえの利いた糸を引くようなシュート。チェルシーからすれば、ドッキリの落とし穴に落ちたような失点だった。いまだに信じがたいであろう。

後半は、あの ノルウェイ人の主審が試合をコントロールできず、退場者を出すわ、ハンド見逃しもあるわで、やや冷静さを欠いていたようだった。主審のジャッジも最後はバルサに運があった。(バラックがあんな怒るのはあまり見たことないが、あれは怒るのも無理ない)




気が早いが、決勝の展望についてすこし触れてみる。おそらく、マンチェスターユナイテッドとしては、相手がバルセロナでよかったはず。同じリーグのチェルシーの方が嫌だったであろう。なにより、ヒディング監督の采配は不気味だ。試合前の雑念すら生みかねない。かたや、バルセロナは選手がすごくても、ベンチワークや監督を見れば、(準決勝もそうだったように)おのずと、マンチェスター・ユナイテッドの口元は緩む。要するに、スペクタクルを引っさげて素直にぶつかってくる相手をどういなすかである。そういう意味では、バルセロナ相手というのは(あれこれ考えなくてすむ分)やりやすいし、歓迎であろう。たとえゲームを支配されても、一撃一発で沈めることが出来る。去年もスコールズへのプレゼントパスでバルサ号は沈んでいる。

決勝は、立ち上がりからマンチェスター・ユナイテッドがイニシアチヴを握ってくるだろう。バルセロナは数打てば当たるスペクタクルを90分持続して、凌駕できるかがポイントで、中央を意識しすぎると、ギャンブルになる。とりあえず、大砲を何門か持っているマンチェスターユナイテッド優位に変わりはない。あと、赤紙、累積停止はマンチェスターユナイテッドフレッチャーに対し、バルセロナダニエル・アウベスアビダルの両サイドバックが不在だが、ユーロのように、準決勝の時点で累積を消すなどの措置は欲しいところだ。