五輪もW杯も、「初開催」には、それなりにリスクがある。

     
    

ブラジルは2014年にサッカーワールドカップ、2016年の五輪開催をする。一大バブルが来そうだが、そうウカれてもいられない。世界情勢は、財政負担を抱えるアメリカを中心にデフォルト・下方局面に傾いており、おそらく、2010年代の世界経済は不遇の連続であろう。爆心地アメリカの景気回復には、少なくとも10年はかかる。ドルが基軸通貨を維持できているのかすらわからない。とにかく、2010年代は世界の金の流れが著しく滞り、資金調達には逆風の環境になるであろう。もちろん、21世紀でBRICs諸国(中国、インド、ブラジル)が既存の先進国に主役が取って代わるならば、話は別になる。

油田発見もあり、ブラジルの経済状態が右肩上がりするという見方が支配的だが、原油相場がワールドワイドでどう解釈するかは今のところ不透明である。ブラジル政府は、二度の招致活動でかなりの資金が投入された。基本、開催決定で更に負担の増えた財政が厳しい事に変わりはない。(先進国並みの)インフラ整備、治安改善、格差是正、雇用拡大、レアルの維持など、政府として、やることは前途多難だ。

2014年のW杯だけでも大変なのに、立て続けに五輪開催となると、近年、(大規模に成長したW杯、五輪の連続開催を)やった国はなく、先進国でも相当な負担になるところを、新進のブラジルがやるのだから、注目ではある。意地悪な見立てをすると、(先進国はあえてやらずに)ブラジルを生贄・実験・捨石にした見方も出来る。逆に、わたしからすると、FIFAIOCは、ブラジルを潰そうとしているのだろうかとさえ思えてしまう。2012年あたりになって、ブラジル、W杯、五輪開催危機、なんていうニュースが出ても、不思議はないだろう。とにかく、さらなる負担増で貧国ブラジルがメルトダウンの危険すらあるのは忘れてはならない。


2014年と2016年のわずか2年間の短期間に、2回の世界的な大規模大会開催には、どうしても巨額の資金が必要になる。とにかく、ダブルで金がかかる。国民の負担は増えて、税金だけでは無理だ。油田開発を前倒し、お得意の国債を乱発しても、追いつかないかもしれない。当然、先進国から借金もしなければならない。その資金調達が生命線である。そして、期待される経済効果も(多額のインフラ整備に)終始トントンで終わり、大会後は、行き過ぎた先行投資で逆に負の遺産を残すリスクもあるにはある。もちろん、油田開発と合わせて、うまく回転をつければ、起爆剤になるかもしれないが。また、ブラジルにとって、開催順がW杯より五輪が先の方がよかったかもしれない。というのも、「サッカー>五輪」のブラジルにおいて、2014年のW杯でブラジル代表が優勝を逃すような事があれば、相当なトーンダウンになるであろう。また、インフラ整備もW杯の方が巨額である。もちろん、(大陸持ち回りで強引に開催地にされた手前)W杯の開催返上危機も払拭されてはいない。

ここで、視点を変えて他も見てみよう。サッカーW杯が行われる南アフリカも、(FIFA会長選票の思惑と)アフリカ大陸初開催というアドバルーンで開催が決まったようなもので、実際の現場での問題は、放置されたままだった。そして、来年、強行開催される。おそらく、新設スタジアムを作った箱物は、すべて負の財産となり、維持、ランニングコストで借金は増える一方であろう。チケットも、完売とアナウンスする半面、国内販売分では、無料チケットがばら撒かれ、実際の収支はいかほどにもいかず、最終的には、運営費用コストに押しつぶされるのではないだろうか。

前述しているように、分不相応の開催は、下手をすると、その国の負担増になりかねない。おまけに、IOCは、国に赤字の補填保障までさせているのだ。開催国にとって、負担が小さいはずがない。もちろん、第三国にも平等にチャンスを与える事に異議はない。ただ、チャンスをやり過ぎても、被害は開催国が一人で背負い込むのである。また、IOCも、先進国を袖にすると、いざという時は、結局、(金のある)彼らしか頼るものがないだけに、やりすぎはよくないであろう。重要なお客さんが誰なのか。お金を持っているお客さんが誰なのか。その辺は政治や企業と変わらない。


W杯と言えば、ラグビーのW杯が2019年に日本で開催される。これも、(世界的に)ラグビー不毛の地・アジアでの「初」開催である。ラグビーW杯は、今やサッカーW杯、五輪に次ぐ3大スポーツイベントのひとつでもある。ただ、日本のラグビー熱など、たかが知れていて、このラグビーW杯日本開催は(運営自体は成功しても、興行的には)間違いなく赤字&大失敗に終わる。IRBは、2015年のイングランド大会とセットで考えていて、両大会の採算をチャラにする目算で、先回りでリスクヘッジはしてはいる。大会の(スポンサー、放映権などの)収入もIRBが総取りする構図で、日本は不人気で馬鹿高いチケットを売らなければ、収支にならないという割の合わない話だ。ただ、これも、いうなれば、赤字補填が出来る日本ならではといえよう。


つまるところ、なんであれ、イベントの実行有無はスポンサーありきである。出資者、金ありきである。結局、どのイベント、大会にしろ、スポンサーは、(日本、欧米を中心とした)一部の先進国の企業で80%を占めているということだ。景気が良いうちは、FIFAIOCは何も問題にしないであろうが、五輪のような金儲け主義の体質だと、ひとたび世界恐慌にでもなれば、開催できる国は限られてくる。赤字でもOKの国となると、(日本か中東など)さらに限られてくる。スポンサー撤退で大会が開けませんというのは、別に珍しいことではない。


東京五輪落選後、趨勢では、2020年の五輪立候補について、あれこれ言われているようだが、何度、立候補しても、日本は落選するであろう。まず、なぜ東京なのか。それが無ければ、相手に伝わるものは、何もない。また、どちらかというと、裕福な国より経済の苦しい国の方が、五輪を起爆剤と考えるゆえ、彼らの開催熱が高いのは間違いない。その点で裏を返せば、日本の場合、格差社会、不況と言われてるものの、まだまだ社会が過度に危機的にはなっていない証左でもあろう。

であるならば、内外に刺激を与える意味でも、日本は、「落選したら、今後、一切、五輪に立候補しません」と宣言する選択肢も(強硬手段だが)あるにはある。そのぐらいのアピールをしないと、IOCにプレッシャーをかけるようでないと、東京は開催地に選ばれないであろう。IOCは候補は他にいくらでもあると言うかもしれないが、結局、金儲けの五輪である限り、景気に左右されてしまうリスクはあり、日本としても、五輪以外にも、招致イベントはたくさんあると言って、突き放せばいいだけだ。そもそも野球が種目から除外されてしまうこと自体、リオ大会で種目にサッカーが無いようなものであり、野球大国・日本にとって、わざわざ開催するメリットもない。

また、さらに根本を突き詰めると、日本のスポンサーがすべてのイベントから撤退してしまえば、おそらく、(アメリカ以外の)世界中にあるイベントの三分の一から半分は開催困難になるであろう。日本は、それに気づいてもいないし、IOCFIFAにとって、かなり脅威であることの自覚すらない。事実、すでに、FIFAブラッター会長は、W杯開催条件の緩和(スタジアムは8万収容でなくてもいい)に言及している。




*既UP記事の一部分と重複している箇所があります。特に推敲・深化に欠ける雑文ですのであしからず。