<選評> 日本代表 69-10 アジアバーバリアンズ

本来、証明施設のない秩父宮ラグビー場に灯が燈った。実に34、5年ぶりという。実際、臨時に立てられた4本の照明ライトは、いつも見ている秩父宮とは違う趣を醸し出していた。これだけを見たくて観にいったという部分もあるが、ただ、悲しいのは日本代表の壮行試合だというのに、早慶戦より客は入ってないことである。なんとかメイン、バックは埋まったが、ゴール裏はがらがらだった。しかも、サッカーや野球のように応援が確立されていないから、静かで、時折、浮いたような野次しか飛ばない。どこかピントがずれているのだ。演出もなんだかイマイチ。

さて、試合は「日本代表 69-10 アジアバーバリアンズ」の大差となり、まともに見ていられる内容でもなく、途中から眠くなった。やはり、ラグビーはロースコアの接戦にならないと面白くない。むしろ、日本選手権1回戦での早稲田大学 対 タマリバクラブの試合を見ているようだった。アジアバーバリアンズは、日本のOBにアジア諸国の選手を寄せ集めた、いわゆる「おっさん」チームである。元木や坂田などのロートルが奮闘していたが、やはり、即席チームは即席チームで、到底、これからワールドカップを闘う日本代表の相手としてはすこし分相応ではない。この壮行試合で海外のチーム(ロシアあたり)を呼べないのが苦しい。(正直、怪我をしたくないと言うのもあるのであろう。)

試合ではFB有賀が気を吐いていたが、正直、本番で同じプレーはさせてもらえない。むしろ子ども扱いされてしまうであろう。矢富も、やや山なりのスローなパスは狙われてインターセプトされてもおかしくはない。流れの中で軽快なリズムで放れている時はいいのだが、FWがプレッシャーを浴びせられると、おそらく、いとも簡単に捕まるであろう。攻撃では、特に、2次攻撃以降の精度の悪さはあいかわらず何も変わっていない。3次4次とつづくと、人さえいなくなってくる。ディフエンスの仕上がりはまずまずだが、その質は、相手と展開と得点差に左右されやすい危ういものである。


正直、この日本代表よりも東芝の方が強いのでは?とも思わなくもない。連携など上手いのだが、それでも要所要所でノックオンオフサイド、ノットロールアウェイ、つまらないミスが多く、流れの中で器用に闘えていない。チーム力という点では東芝の方が上であろう。本番でも、ここぞという場面で絶対ミスしてはならないシーンは必ずあり、とてもではないが、チームとして世界で戦うレベルにはない。相手もミスしてくれて、ミスの擦りあいの展開にならないと厳しいであろう。試合後の場内インタビューで、大畑は「フランスデ結果残してきます」と言っていたが、相当、運任せ、他力本願な部分にゆだねられないとならない。


サッカーとは違い、ラグビーのワールドカップにおけるアジア枠はたったの1枠。第一回大会からずっと日本が独占してきている(連続出場記録更新中)。いうなれば日本に適う相手はアジアにはおらず、日本はアジア代表で、その分、日本がいまだにワールドカップでの通算成績が1勝15敗というのも、すこし不味い。突き詰めてみると、ラグビーユニオンにとって、アジア枠は招待枠、市場のマーケティング枠のような扱いになりつつある。また、前回大会、4戦全敗で日本のマスメディアから総スカンされただけに、ここは、ぜひともフィジー、カナダには2勝して、なんとか面目を保ってもらいたい。

ワールドカップにおける日本代表の日程だが、対戦順はあまり好ましくない。緒戦でオーストラリア、ウェールズはナントではなく、カーディフで行われるため、サッカー日本代表でもなかなかお目にかかれないほどの見事な完全アウェイになる。

9月 8日(土)22:15~ 日本 対 オーストラリア
9月12日(水)24:30~ 日本 対 フィジー
9月20日(木)27:30~ 日本 対 ウェールズ
9月25日(火)24:30~ 日本 対 カナダ

ワールドカップの放送は、日本戦4試合は、すべて深夜に生放送されるが、キー局が日本テレビ系列である。正直、ラグビー中継が一番上手いのはまちがいなくNHKである。大学ラグビーで培ったあの落ち着きある実況は、民放が束になってもかなわないし、いまから、ラグビーノウハウもなにもない日本テレビの実況に辟易してしまう(正直、放映権を買わないで貰いたかった)。サッカー日本代表のようにタレント呼んでバラエティ仕上げも無理があるのだから、地味にNHKでふつうにやってもらいたかった。だが、ラグビーの解説者は、すくなくともサッカー、はたまたプロ野球よりも確かな実力層がいる(これはラグビーの唯一、ストロングポイント)で、その辺は救われる。