<戦評> 浦和 対 上海申花 =ACLチャンピオンズリーグ=

息が白い。
すでに桜散った後だというのに、埼玉スタジアムは肌寒い。
今年は暖冬だったはずだが、まるで真冬に逆戻りしたかのようで、おまけに雨まで降っている。

そんな冷たい雨の中、試合前、わたしは内容より結果を求めていた。Jリーグでは内容を重視するが、このACLは「勝つ」ことがすべてである。立ち上がりの浦和の内容はそれなりに悪くなく、集中力や気合もそこそこに入っていた。むしろ上海に出来の悪さを感じた。中国代表もいる彼らの「名前」はそれなりに揃っているものの、チームとしての連携は構築されておらず、何も出来上がってない印象だった。どこか即席チームの感は否めず、どこか2月のゼロックス時の浦和を見ているようだった。高さがあるのにさほど怖さもなく、攻めもカウンターからのスピードしか脅威が感じられなかった。これで本当に現在の中国プレミアリーグ首位なのだろうか。正直、この出来の上海に引き分けたら、かなり不味いという強迫観念に、徐々に縛られていく。

本来、後が無い相手を相手にするというのは難しい。今回の上海はそういった相手だった。すでに2連敗している彼らはこの試合を絶対に勝たなくてはならない。そして、われわれ日本人はそんな相手が往々にして苦手である。ただ、あろうことか上海は終始どん引き姿勢で試合を進め、能動的に攻めてこなかった。浦和に負けて3連敗になると、ほぼ絶望の淵に立たされるにもかかわらず、(アウェイとはいえ)彼らに攻める意志は感じられなかった。なにより勝ちたいという意思が伝わってこないばかりか、まるで何かにおびえているようだった(どこか昔の日本代表を見ているようだった)。よって、そんな相手には、浦和の4バックスの4-4-2(見方によっては4-3-3)がハマった試合といえよう。

一昨日のマンチェスターユナイテッド対ローマではないが、浦和が早い時間に1点取れば、かなり楽になり、ワンサイドゲームの可能性もあるにはあった。しかし、決定機で決められない。立ち上がり直後の永井のシュートは決めなければならないが、ワシントンもことごとく枠を外していく。どこか陰線の引きそうな試合だったが、浦和のリズムは悪くなく、引いた相手に最終ラインを高く保ち、セカンドボールからきちっと攻撃のリサイクルが出来ていた。特に、鈴木、阿部、(小野、長谷部)のところでボールを奪取できていた。よって、八割近くは浦和がゲームを支配していた。

この相手に、先制点はやや遅すぎたかもしれないが、前半42分という時間は点を取る時間帯として悪くない。ファウルからのセットプレーによるポンテのFKから阿部がヘッドで叩き込んだ。ようやく1-0に。このまま前半0-0で終っていたら、不味い状況になっていても不思議はなかっただけに、これで浦和はすこし楽になれた。

浦和の中でも刮目するのはやはり、先制点を決めた阿部である。すでに浦和で10試合近くプレーしているが、承知のように、先手の読み、戻りの早さ、カバーリング、相手をフリーにさせないうまさは、やはりオシムの秘蔵っ子であることを改めて思い知らされる。去年まで鈴木が不器用にもそれなりに背負ってきたプレッシャーは阿部によって軽減され、鈴木も本来のスゥイープ&配給役に徹することができ、長谷部、小野も攻撃に専念できる。まだ、時間はかかるが、中盤の底は出来つつある。

ただし、DF陣における坪井のミスはすこし気にかかる。急造の4バックスの真ん中とはいえ、相手のカウンターに対するスピード対応以外にあまり見るべきものがなく、わたしの目算でも3、4回はありえないミスを犯している。ネネもそうだが、一線級のトップレベルで闘うステージになれば、この守備では浦和の不安材料となるであろう。

もちろん、急造の4バックスにも安定感はない。鈴木と阿部でなんとか保たれていて、山田は守りに入ると、すこし不安だ。ただし、彼は攻撃に攻めあがると脅威になる。ここは割り切りと使いどころというところか。あいかわらずポンテは悪くなかった。長谷部もまだエンジンがかかりきっていないが、そつなくこなしていた。

このまま試合は1-0で浦和の勝利となるが、この試合で、上海がはじめて素顔を覗かせたのは、後半15分だった。それまで自陣にどん引きに引いていたのが、急にぐっと前へ押し上げてきた。あの時間帯は言い知れぬ不気味さを感じた。おそらく、合併などでチーム内部がゴタゴタしていて、この試合では、彼らの持つ本当の力の20%も出していないのであろう。

次戦、ホームでの上海は普通に攻撃してくるであろう。今日見た限り、彼らがポテンシャルを普通に発揮すれば、今の浦和相手なら2ゴールは獲れるであろう。浦和もまだまだ本来の形はなく、試行錯誤の段階であり、油断すれば1-3でやられる。とりあえず、次も1-0で良い。勝ち点でシドニーFCと並走し、5月23日に決めれば良い。欲を言えば、(平日&雨とはいえ)埼スタをもっと満員にしないと、相手にアウェイの雰囲気が完全に伝わらない。それがすこし残念ではある。開催は準ホームの国立でもいいのだが。


もうひとつのACL組である川崎も3-1で全南にアウェイで快勝した。強豪ばかりの厳しいJリーグ日程の中、タフな面を見せ、これは決勝トーナメント進出へ向けた大きな勝利といえよう。浦和とともに日本のクラブがACL決勝トーナメントへ行ければ、来年度以降の参加クラブにも、それなりのモチベーションと義務感を与えられるであろう。本来、そうあるべきでなければならない。



*CL雑評は明日に予定。